高天原異聞 ~女神の言伝~
「――」
やっぱりだ。
ポストの中には本が入れられていた。
手に取るとやはり、バーコードシールはない。
だが、今回は一冊だ。
いつもは二冊なのに、今回は一冊。
合計で七冊。
一体、何がしたいのだろう。
美咲は首を傾げるが、さっぱりわからない。
取りあえず、カウンターに置いておこう――明日山中と相談しなくては。
本を片手にカウンターへ戻る。
積み重なった本の一番上に、今日の一冊を重ねる。
そうして館内の明かりを消そうとカウンター脇の柱のスイッチに手を伸ばす。
明かりが、消えた。
「え?」
美咲は驚いた。
自分はスイッチに触っていないのだ。
しかも、館内の明かりのスイッチは一つではない。
全てが一斉に消えるなど有り得なかった。
しかも、図書準備室の明かりも消えている。
ここの明かりとはスイッチは別なのに。
非常灯は点いている。
「停電――?」
横でドサドサと本が落ちる音がした。
びっくりして音の方を見ると、非常灯の淡い光の中で、先ほど積み重なっていた本が崩れていた。カウンターに一冊残して、全て床に落ちていた。
「――」
何だか嫌な感じがした。
きちんと重ねて置いたはずなのに、なぜ、落ちたのだろう。
拾いに行く気に、なぜかなれなかった。
動けない美咲の目の前で、信じられないことが起こった。
カウンターに残った一冊の本の表紙が、ひとりでにめくれたのだ。
ハードカバーなのに。
風でめくれることなど有り得ない。
無論、閉め切った館内に風が吹くはずもない。
それなのに、表紙だけではなく、次々とページがめくれていく。
中ほどで止まったそのページから、
「!!」
突如、煙のように闇が現れ、美咲に向かって飛んで来た。