高天原異聞 ~女神の言伝~
幸いなことに美咲が選んだ通りは大通りから二本離れているだけなのに、驚くほど人気がなかった。
誰とも擦違わぬまま、住宅街ももうすぐ終わって、また大通りへと出る手前に、美咲の借りているアパートがある。
角の手前の、明かりのついていない住宅の脇の電信柱のところで、美咲は立ち止まった。
「もうすぐそこのアパートだから」
「じゃ、アパートの前まで。美咲さんが無事に部屋に入るの見届けてから」
「――」
美咲は困ってしまった。
勤め先の学校の生徒と一緒に歩いているところを見らたらと思うと帰り道でさえひやひやだったのに、慎也はそんなことはお構いなしだ。
自分は社会人。
相手は未成年でしかも学生なのだ。
どう考えても何かあったら美咲に非がある。
「あのね、本当にここでいいから、もう帰って。それから、今度から送ってくれなくていいわ。困るのよ、こういうことされると」
「俺が勝手にしてることだから、困らないで。この辺は大通り以外、女の人の一人歩きは危険なんだ」
意を決して、美咲は言う。
「迷惑なのよ。図書館にいる間は、図書委員だもの、手伝ってくれてありがたいけど、館外では構わないでほしいと言ってるの」
「それは、できないな」
「どうして!?」
「美咲さんが、好きだから」
さらりと、慎也は言った。