高天原異聞 ~女神の言伝~

 美咲の着ているVネックのTシャツの胸元に、男は人差し指をひっかけた。
 すっと指を下げると、止まるかと思われた指先が滑るように下がっていく。

「!!」

 シャツは音も立てずに男の指が下がるに合わせて裂かれていく。
 下まで裂かれると、今度は下から腹部を撫で上げるようにシャツを左右に開く。
 露わになったブラの胸元にも指をかけると、いとも容易く裂けた。
 美咲は混乱した。
 先ほどまで敬意さえ持って美咲に接していた男が、なぜ急にこんなことをするのかわからない。

「やめて……」

 震える声がもれた。
 男の手がブラと素肌の間に入り込んだ。

「!?」

 ことさら大きくまさぐるように、ブラの布地も取り払われ、上半身が露わになる。
 男の冷たい視線が、舐めるように美咲の身体をたどる。
 唇の端を上げ、男は冷たい笑みを浮かべた。

「そなたの男は、別の男に穢されても、そなたを愛しんでくれるか?」

「!!」

 その言葉が、美咲の中の何かを抉った。
 殴られたかのような衝撃に、美咲は動けなくなった。
 男が美咲の胸元に顔を寄せる。
 唇と濡れた舌が肌を蠢く。

――たった一夜の交合いで、身籠もるわけがない。

 冷ややかな眼差しが、自分を見ていた。

 最後に逢ったとき、溢れんばかりの愛情を込めて見つめてくださったあの方は何処に?

――その子は私の子ではない。国津神の子であろう。

 あまりの衝撃に、目の前が真っ暗になった。




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