高天原異聞 ~女神の言伝~

「!!」

 美咲の絶叫とともに、閉まっていた窓が一斉に開いた。
 うねるように風と水が飛び込んでくる。
 美咲に覆い被さっていた男神めがけて、鋭い風の刃が襲いかかる。
 男は咄嗟に神威で防いだ。

「何っ!?」

 だが、怒りに満ちた風の刃は男の身体と神威を容易く弾き飛ばした。
 容赦なく襲いかかる風の刃。
 全身が風圧で切り刻まれる。
 神威で押さえきれない。

 凄まじい怒り。

 桁外れの神威に、為す術もなかった。
 忽ち血塗れとなり、膝をつく。

「そのくらいにしておけ。憑坐《よりまし》が死んでしまう」

 不意にかかる低い声。
 ぴたりと、男の周りの風が止んだ。
 流れ落ちる血の感触。
 目に入る血が、視界をぼやけさせていた。
 だが、姿が見えずとも、神気を感じる。
 風の神気よりも強く、気高く、そこに在るだけで他者をも寄せ付けぬ――完璧な神気。
 平伏《ひれふ》して、許しを乞いたいと、男は思った。



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