高天原異聞 ~女神の言伝~
7 荒ぶる神
風と一緒に飛び込んできた水は、カウンターで美咲を磔にしていた闇へと向かった。
鋭い水の刃が、美咲を傷つけずに闇の枷を両断する。
斬られはしたものの、闇は質量を増してカウンターから退き、不格好な人型を次々と造りあげる。
人型は全部で七体。
その間に水は立ち上る壁となり、美咲を護る。
開かれた窓の一つには、美しく、強い――荒ぶる神が立っていた。
人型がゆらりと荒ぶる神へと向かう。
「九十九神《つくもがみ》如きが、俺を出し抜けると思ったのか。この中つ国で」
荒ぶる神は嗤った。
揺らめく神気。
満ちる神威。
ただそこに在るだけで、大気が震える。
それを神と呼ばずしてなんと呼ぶ――それほどの、存在。
すっと長い足が前に出た。
優雅にはらった手に、湧き出でるように美しい十拳剣《とつかのつるぎ》が現れた。
「禍事、罪、穢れを、祓い給え、清め給え」
腕が大きく動く。
剣の刃先が完璧な弧を描いて、
「失せろ!!」
強き言霊とともに、空を一閃した。
無音とともに闇の人型が弾き飛ばされる。
神気が身体からだけではなく、握る剣からも陽炎のように揺らめいている。
荒ぶる神。
そう呼ぶのが相応しい。
無造作に伸ばした髪。
逞しい体つき。
長い手足は俊敏に、それでいて優雅に動いた。
猛々しい神気でありながら、完璧な美しさだった。