高天原異聞 ~女神の言伝~
3 夢の名残
何処までも広がる雲海。
眼下には大海原。
そして、生まれたばかりの若々しい島々。
大地を覆う瑞々しい緑の草。
美しい世界。
飽きることなく眺めていた。
いつまでもいつまでも見ていたかった。
身を乗り出しすぎる自分を抱きしめる強い腕。
視線を向けると、微笑みに胸が熱くなる。
寄り添うだけで、心が満たされていた。
ともに生み出した国を、世界を、もう一度見る。
雲が流れ、雨が降り、風が吹き、草が靡き、海原は轟くように岩場に弾け、その全てが自分達を寿いでいた。
愛しさに、心が震える。
なんという愛おしく美しい世界だろう。
全てが満ち足りていた。
神命に従って、天降ったが、彼女はこの世界を愛していた。
望んだ全てが、ここに在るかのように。
地上を見下ろし、彼女は満足する。
――最後の……を
そう言ったのは、自分だったろうか。
それとも、愛しい背の君だったろうか。
だが、異存はなかった。
目の前の彼を、とても愛していたから。