高天原異聞 ~女神の言伝~
「ほら、何ともないよ。何もない。いつもの、美咲さんの大好きな図書館のままだよ」
慎也に言われて、美咲は促されるまま館内に目を向ける。
閉じたカーテンからもれる光で、館内はうっすらと明るかった。
きれいに整頓された書架。
閲覧用の机からは椅子の背もたれが等間隔で覗いている。
いつもの図書館だ。
美咲の愛する、静けさを湛えた空間。
身体から、力が抜けていく。
だが、慎也がカウンターの中に入ると、ぎくりと身体が強ばる。
金曜の記憶が甦って、身体が冷えていく。
慎也は美咲をカウンター手前の業務用机に下ろした。
そのまま、顔を近づける。
「まだ怖い?」
美咲は頷く。
ちらりと後ろを振り返ると、自分が座っている机より高めに備え付けられたカウンターが見えて、思わず身を竦ませる。
そんな美咲の頬を両手で包み込むと、そっと慎也はキスをした。
一度だけでなく、何度も何度も。
強ばっていた身体から、徐々に力が抜けていく。
優しくもどかしいキスに、美咲の唇が薄く開く。
待ちかねていたように、慎也の舌が、美咲の舌に絡みつく。
いきなり深くなったくちづけに、美咲の身体が後ろに傾いだ。
慌てて慎也のシャツの両脇を捕まえる。
慎也の手が頬から美咲の背中に回って、さらに覆い被さるようにキスをする。
辛うじて、美咲は声を出した。
「誰か来たら……」
「誰も来ないよ。休館日だし」
キスをしながら、手際よく片手でシャツのボタンを外され、美咲は抗った。
「いや――見ないで……」
だが、構わず慎也はシャツをはだけた。
胸元に残る鬱血の痕を見られて、泣きたくなる。
「大丈夫」
慎也はそのまま美咲の鬱血の痕に歯を立てるように吸い付いた。
「――!!」
鋭く、甘い痛みに美咲の身体が震えた。
一度では終わらず、慎也は美咲の柔らかな肌に何度も同じことを繰り返した。
ようやく顔を放されて、胸元に目を向けると、さっきよりももっと鮮やかな鬱血の痕が散らばっていた。
「ほら、俺の痕だ。しばらく消えないよ。これ見るたびに、俺にカウンターでされたってこと思い出すよ」
羞恥で、顔が赤くなる。
恥じらう美咲に、慎也が優しく笑う。
「そこでそういう顔するから、とまらなくなるんだ」