高天原異聞 ~女神の言伝~
項と背中に手を回すと、慎也は優しく美咲をカウンターに押し倒した。
そのままスカートの中に手を入れ、ショーツを引き下ろされる。
ショーツが床に落ちると、両脚の間に慎也が身体を入れてきた。
素早さに、抗う暇もない。
胸の一番敏感な先端を舌と指で弄られて、美咲は弱々しく首を振った。
だが、身体は正直に慎也を迎え入れようとしている。
開かされた脚の付け根の奥は、すでに濡れていた。
慎也の熱が入り口に押し当てられて、ぎゅっと目を閉じる。
「ダメだよ、目を閉じないで」
その声に、美咲はゆっくりと目を開けて、慎也を見上げた。
カウンターについていた慎也の手が、美咲の手に重なる。
「初めて美咲さんのアパートで触れたときみたいに、俺を見てて」
指を絡めて、優しく美咲を拘束しながら、慎也は身体を重ねてくる。
「こんなとこで……駄目……」
「ここだからだよ。だって、ここにいる美咲さんが好きだから。カウンターで仕事してる美咲さんを見るたびに、すごく嬉しくなる。俺を見てくれると、好きだって気持ちが溢れてくるんだ。だから、美咲さんにはいつも笑ってここにいてほしい。ほら、今美咲さんに触ってるの、俺だよ。中に入るの、俺だけだ。他の誰でもない」
優しく、ゆっくり、慎也が入り込んでくる。
そのじれったさに、美咲は背を反らせて喘いだ。
深く入り込んで、慎也は一度息をついた。
「すごく、気持ちいい。美咲さんの中」
美咲も同じだった。
慎也が触れると、身体の全てが喜びと快さで満たされる。
慎也以外では駄目だった。
それはもう、決定事項なのだ。
遙か遠い彼方に過ぎ去った前世からの。
「ここに立つたび、思い出すよ。俺としたこと。俺が抱いてること」
暗示のように囁かれる甘い言葉。
穏やかに揺さぶられて、甘い痺れが何度も身体を震わせる。
慎也の背後に見える薄暗い木目の壁、仰け反るたびに視界に入る天井の照明。
普段カウンターから見えている景色とは違うものが、羞恥と興奮を煽る。
世界が優しく揺れている。
片手で口元を押さえても、堪えきれない声がもれる。
こんなところを、誰かに見られたらと思うと余計に感じてしまう。
あくまでも優しく、穏やかに美咲を抱く慎也の動きに、美咲は程なく達した。
「……」
いつもとは違う、もどかしいような絶頂感に、美咲は戸惑う。
だが、それも慎也に抱きしめられ、上半身を起こされて気づく。
美咲の中にいる慎也はまだ張りつめたままだ。
「慎也く――」
声をかけようとして、いきなり抱きしめられたまま抱え上げられて、咄嗟に美咲は慎也に縋り付く。
そのまま慎也はくるりと向きを変え、今度は自分がカウンター手前の机に座り込んだ。
そのため、美咲は机に膝をついて、慎也に跨るような体勢になってしまう。
身体を繋げたままの思いがけない動きに、美咲の内部がびくびくと震える。
「――美咲さん、動くよ」
声を殺すように言って、慎也は美咲の腰をつかんで自分に押しつける。
美咲はいつになく深く貫かれる感覚に短く叫んだ。
達したばかりの敏感な内部を穿たれると、声を我慢することができない。
慎也にされるがままに突き上げられて、その度に美咲は激しく喘いだ。
「――待って! ――もっと――ゆっくり!!」
揺さぶられながら、悲鳴をあげるように懇願するが、慎也の動きは止まらない。
「無理。ここで、こんな風に、抱いてみたかったんだ。こんな可愛い美咲さん見て、おさまるわけ、ない」
快感も過ぎれば痛みのように感じるものだと、美咲は初めて知った。
身体は喜んでいるのに、心はそれについていかず、翻弄されながら早く終わって欲しいと願っていた。
そうして、これ以上は耐えられないと思ったとき、美咲は慎也の肩に置いていた手を首に回して縋り付いた。
限界を越えて、繋がっていた内壁が激しく痙攣し、一際大きく、美咲は叫んだ。
苦痛のような激しい快楽に、頭が真っ白になった。
「っ!!」
激しく締めつけられて、慎也も息を詰めて美咲の腰を自分に強く押しつけたまま動きを止めた。
美咲に引きずられるように、慎也も美咲の中で何度も痙攣して熱を吐き出した。
互いの乱れた呼吸がようやく耳に入ってきたとき、美咲の身体から、力が抜けた。
何も考えられずに、美咲は慎也に凭れたまま目を閉じた。
そんな美咲の首筋にくちづけながら、慎也が囁く。
「ここで仕事するたびに、俺のこと思い出してね。美咲さんが好きで好きでたまらないってこと」
そのまま、美咲の意識は途絶えた。
美咲が目を開けたとき、館内はカーテン越しの日差しでずっと明るくなっていた。
「気がついた?」
「――」
美咲はカウンターから離れた閲覧用のソファーに横になっていた。
座っている慎也の脚に頭を横にして預けている。
視線を下げると、服をきちんと着ている。
どうやらまた慎也がしてくれたのだとわかると、ぼんやりとした意識の中でも、恥ずかしくなる。
慎也の手は美咲の髪を撫でていた。
その優しさが心地よくて、美咲はもう一度目を閉じかけたが、視界の端に奇妙なものを捕らえて目を開ける。
「――」
見間違いではなかった。
美咲は、手をついて身体を起こした。
「美咲さん?」
「慎也くん……柱が、光ってる……」
「え――?」
視線を、美咲の見ている方へ流した慎也も、動きを止める。
図書館の中央にある太い柱が、陽炎のように揺らめきながら淡く発光していた。
「天の門が開き、天の浮橋が架かった――」
低い声が、そう告げた。
二人ははっと声のした方に顔を向ける。
無造作に伸ばした髪。
すらりとしているが、逞しい体躯。
在るだけで、畏怖の念すら覚える荒ぶる神。
そこに、建速が立っていた。