高天原異聞 ~女神の言伝~
雨音に、美咲は目を覚ました。
「――」
静かな雨音は、それまでの夢の記憶を掻き消した。
美咲は起き上がり、どんな夢を見ていたのか思い出そうとした。
何だか、とてもいい夢だったような気がするのに、思い出せない。
何か、とても大切な夢だったような気がするのに。
ベッドのすぐ横の二重窓の内側を開けると、細かな雨が霧のように周囲を満たしていた。
昨日は雨が降る兆候などなかったのに、今日の突然の雨に首を傾げる。
昨日。
そこで、美咲は昨日の帰り道の慎也とのキスを思い出し、唇を押さえた。
強引だったが、優しいキスだった。
そのせいで、自分の気持ちを認めねばならなくなってしまった。
初めて会ったときから、好きになっていたこと。
いつもいつも話しかけてくれて嬉しかったこと。
自分のほうが年上だから、素直になれないこと。