高天原異聞 ~女神の言伝~
認めてしまえば、きっと、自分の気持ちは隠しておけないだろう。
隠そうとすればするほど不自然になってしまう。
だって、今だって、こんなに会いたいのだから。
もし、今日も慎也が来たら、どんな顔で会えばいいのだろう。
会いたいけれど、会いたくない。
相反する気持ちに、大きく美咲は息をつく。
時計に目をやると、目覚ましがなる五分前だった。
そろそろ準備をしなくては。
もう一度外を見ても、雨は止む気配はない。
きっと今日一日はこのままだろう。
なんとなくそう思った。
目覚ましを止め、身支度を整え、朝食代わりの果物をつまんで、美咲はアパートを出た。
傘を開いて歩き出すと、優しく雨の気配がまといつく。
傘に当たる細かな雨粒は優しく振り続ける。
どんよりとした曇り空。
加えて、何も解決していないこの状況。
なのに、なぜだか美咲は幸せな気分だった。
忘れてしまった夢の名残が、そうさせたのだろうか。