高天原異聞 ~女神の言伝~

 不意に目を覚ますと、そこは褥の中だった。
 独りなのが奇妙に思えて、愛しい人の気配を探す。
 だが、もともと独りだったのだと気づく。
 夢の名残で、錯覚したのだ。
 久方ぶりに、夢を見た。
 愛しい背の君と初めて出逢った、甘美な思い出を。

 月見をしていたはずなのに、褥にいるとは、もしや黄泉神が――?

 身を起こそうとしたが、夢のせいか気怠く、諦めてもう一度目を閉じる。
 愚かで幸せな夢だった。

「……」

 満ち足りた感覚に、しばし須勢理比売は身を委ねた。
 もう一度眠って起きたなら、きっとこの夢も遠くに追いやってしまえる。
 だから、今だけ。
 もう少しだけ。

「……様……」

 夢うつつで、愛しい夫の名を囁いた。



















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