高天原異聞 ~女神の言伝~
3 死して再び
「母上様、母上様っ!!」
力を失って崩れ落ちる美咲の身体を、久久能智《くくのち》と石楠《いわくす》が支えながら呼びかける。
「美咲!?」
荒ぶる神の手が美咲の顎を捕らえ、上向かせる。
だが、美咲の意識が戻らないのを見て、舌打ちした。
「神霊が身体から抜け出ている。何かに連れ去られたな」
「建速様、母上様は何処に!!」
「連れ去られたとは、どういうことなのですか!?」
美咲の首にかかっていた首飾りの勾玉が淡い光を放つ。
建速の手が、首飾りに翳された。
「――風がついていった。ならば、美咲は護られている。誰が喚んだにせよ、傷つけるつもりではないらしい。確かに、敵意は感じなかった。少なくとも須勢理ではない。黄泉神とも違う。どうしても駄目なら、追って連れ戻す。ひとまず待とう――葺根《ふきね》、宇受売《うずめ》、須勢理《すせり》の屋敷の様子を窺ってこい」
「は――」
「御意に」
すぐに二つの影が屋敷に向かって消えていった。
「建速様? 貴方様は本当に母上様の神霊を追えるのですか?」
「我々には追えませぬのに」
建速は美咲をそっと草の上に横たえる。
そうして、眠っているようにも見える美咲の頬に優しく触れる。
「追える。その為に、生まれてきたのだ。それが、俺の誓約《うけい》でもある」