高天原異聞 ~女神の言伝~
日も高くなった頃合いに、穴持は己貴の部屋へと戻ってきた。
「兄上。昨夜はいかがでした?」
「おお、己貴。そなたのおかげだ。八上比売は、私を受け入れてくださった。噂に違わぬ愛しく麗しい比売であった」
喜びを隠せぬ穴持の様子に、己貴は微笑んだ。
「兄上と八上比売がお幸せならば私はそれで。ですが、他の兄上達には暫し話さぬ方がよろしいでしょう」
「うむ。折を見て、私もそなたへの誤解を解いておく。独りにはなるな。常に私といろ」
「はい、兄上」
己貴は嬉しかった。
穴持が幸せそうなこと、誤解を解くことが出来たことが。
後は兄の八十神達の誤解さえ解ければ、自分は心おきなく旅立てる。
だが、この時、己貴も穴持も気づかなかった。
八十神である他の兄が部屋の外に潜んでいて、話を聞いていたことを――