高天原異聞 ~女神の言伝~
しばらく目を閉じたまま、美咲は動かなかった。
感情もようやく落ち着いた頃、書庫の引き戸が開く静かな摩擦音がした。
「美咲さん?」
慎也の声だった。
それだけで、胸の鼓動が別な意味で早まった。
「だめ、来ないで!」
腰を上げようとしたが、先ほどのショックのせいなのか、足に力が入らず動けなかった。
慎也は足音も立てずにさっと書棚の影から顔を出した。
階段に座り込んでいる美咲を見ると、
「美咲さん? もしかして、階段から落ちた?」
すっとしゃがんで目線を合わせてきた。
それだけで、どきどきする。
「また本をかばった? 怪我してない?」
「落ちてないわ。ただ――休んでただけ、それだけ」
俯いたまま答えると、訝しげな慎也の声がする。
「階段の途中で、本抱えたまま?」
「そうよ」
「ホントに?」
不思議そうに慎也が聞くが、それ以上、美咲は言わなかった。
自分でさえも信じられない先ほどの出来事を慎也に言う気にはなれなかった。
自分の勘違いだ。
きっと、そんなに勢いよく滑ったのではなくて、ちょっとよろめいただけなのだ。