高天原異聞 ~女神の言伝~
10 夢の終わり
世界を劈く恐ろしい神鳴りが、美咲にも聞こえた。
「この音は――」
「理《ことわり》が悲鳴を上げているのです。須勢理と父神が戦っています」
根の堅州国に異変が起きている。
世界を壊すほどの神威が発現している。
「このままでは、須勢理が世界を壊してしまう。それでは、駄目なのです。貴女様が終わらせてくれなければ、須勢理は――神々は、この呪縛から解き放てない」
己貴《なむち》の姿が、一層かすむ。
「己貴様!?」
「女神よ。國産みの力を持つ生と死の神威をお使いください。根の堅州国に終焉を――我らの永き苦しみに、終わりを――」
己貴の神霊が消えた。
暗闇に独り、取り残される。
それ以上、誰を呼んでも、返答はなかった。
「どうすればいいの……」
美咲にはわからなかった。
記憶も神威もない自分に、何ができる――?
一人では夢から覚めることもできない。
「――」
その時、美咲は気づいた。
そう――一人では、駄目なのだ。
自分は――自分達は、一人では何もできない。
二つで一つ。
それが、神代から決められた約束だったのだから。
それを覆すことは、誰にも、何にもできない。
「だって、逢いたいのは、恋しいのは、いつでも、一人だけだもの……」
不意に、風が取り巻く。
勾玉が淡い光を放つ。
喚んでくれと、希《こいねが》うように。
美咲は、その願いに応えた。
「志那都比古《しなつひこ》――あの人を連れてきて。現世《うつしよ》と幽世《かくし》の境目、伊邪那美《いざなみ》が創りだした夢の中へ、愛しい人を呼び寄せて」
風は、その願いに応えた。