高天原異聞 ~女神の言伝~
「――」
自分自身に言い含めるように納得させて、美咲はふと近づいてきた影にぎょっとして後ずさった。
もちろん、階段に座り込んでいるのだから、すぐに段差がそれ以上の後退を遮る。
背中が階段の段差に当たる。
本を抱きしめたまま仰向けに仰け反る格好になった美咲に覆いかぶさるように慎也は身を乗り出してきた。
美咲とともに斜めになった本が次々と階段を滑り落ちていく。
いくら廃棄予定とはいえ、ぞんざいには扱えない。
咄嗟に手を伸ばしてみたものの、かえって慎也に密着するような格好になってしまうので、それ以上動けない。
かといって後ろに下がることもできない。
あまりにも近すぎる距離に、いたたまれない。
それでも慎也は気にしたふうもない。
このパーソナルスペースの狭さは何とかしてほしい。
「あ、あのね、離れてほしいんだけど……」
「ダメ。まだ、ちゃんと聞いてないから。何でこんなとこに座り込んでたの?」
「話すから――話すから、離れて」
そこまで言うと、慎也はようやく身体を離した。
美咲の手をとって、体勢を整えさせる。
それでも、手は放さない。
「で、何でこんなとこに座り込んでたの? 立てないみたいだし、何かあったんでしょ?」
ごまかしを見抜いてしまいそうな瞳で、美咲を見上げる。
美咲の座っている段差より二つ下に座っているため、俯いて視線を逸らすこともできなかった。
「……」
渋々、美咲は先ほどの不思議な出来事を慎也へ話した。