高天原異聞 ~女神の言伝~
第六章 黄泉つ神々
1 神降り
「母上様――?」
懐かしく、愛しい神気を俄に感じ、黄泉日狭女《よもつひさめ》は振り返る。
だが、それは遠く、霞のように消え失せる。
先ほどから、黄泉国の奥深くにも響くこの幽かな神鳴りと祖神伊邪那美の気配とには関わりがあるのか。
神鳴りは、産みの力を持つ祖神――伊邪那岐と伊邪那美しか起こせない。
まさか、戻ってくるのか。
あんなにも厭うていたこの黄泉国へ。
それは、もしや闇の主の仕業か。
望まぬ帰還を果たすのか。
「ああ、母上様――」
闇の中で現象した自分には、この国以外のことは何一つわからない。
それでも、予感がする。
何かが起こる。
もどかしい思いで、日狭女は黄泉国の門へと向かった。