高天原異聞 ~女神の言伝~
宇受売は先を往く神に追いつくと、杖を持つその手を掴んだ。
背の高いその男神を見上げ、躊躇うように問う。
「私を……憶えているか……?」
「そう言うそなたは、俺を憶えているか?」
面の奥から漏れる声。
「俺の名を、憶えているか?」
宇受売は、小さな声で、だが、はっきりと告げる。
「神田比古《かむたひこ》……」
道往神は、空いている手で、ゆっくりと面を取った。
面には似つかぬ、男らしくも美しい顔立ち。
そこに見えたのは、確かに、宇受売の見知った顔であった。
「宇受売――久しいな」
懐かしい笑みで、男神は微笑んだ。