高天原異聞 ~女神の言伝~
黄泉路を降る神々は、しばらく黙って歩き続けていた。
どれほど歩いたのか――路の先が、なにやら仄かに淡く輝き、揺れているのに宇受売《うずめ》が気づいた。
「神田比古《かむたひこ》、あれは何だ?」
「心配は要らぬ。美しい花が咲いているだけだ」
「花? 黄泉路に……?」
訝しげに問うも、近づく一行らの目に、徐々に淡い光がその姿を露わにする。
「何と……確かに……」
宇受売は、立ち止まる。
路を覆うように、両脇から桃の木が続いている。
薄桃の花びらは散ってはつもり、それでもなお咲き誇っている。
「これはまた、美しい……」
葺根《ふきね》が感嘆の声を上げるのが背後から聞こえた。
暗闇だけだった黄泉路の途中に、そぐわぬ美しさだった。
一行は暫し立ち止まり、そのらしからぬ美しさに魅入った。