高天原異聞 ~女神の言伝~
「――そんなふうに言わないで」
相反する気持ちが今も振り子のように揺れ動く。
「昨日も言ったよね。ここは、私の大事な職場なの。困るのよ。職場で年下の子にこんなふうに接するなんて」
「俺が年下で、美咲さんが年上なのは、俺達のせいじゃないでしょ」
繋いだ慎也の手に力がこもる。
「俺がせめて大学生ならいい? 来年には、そうなるよ。それまでは、秘密にするから。それならいい?」
「……」
あと十ヶ月。
それまで慎也との仲を隠しておけるのか。
美咲は、その十ヶ月が途方もなく長く感じた。
自分のことならよくわかっている。
嘘をつくのは苦手なのだ。
「自信ないもの、うまく隠して、なんでもない振りするなんて……」
「じゃあ、隠さないでよ。今なら誰もいない。俺と美咲さんだけだよ。俺のこと、好きだよね?」
「返事に確信持ってるのに、なんで聞くの?」
「美咲さんの言葉で、声で、聞きたいから」
期待に満ちた眼差しで、慎也は美咲を見つめている。