高天原異聞 ~女神の言伝~

「では、繋ぎます」

 何もない空間に徐々に闇の扉が顕れる。
 闇の異界と呼ばれる黄泉大神の創り出した闇の檻だ。
 確かに、扉の向こうに自分の神威が感じられた。
 完全に扉の姿が顕れ、固定されたその時。

「!?」

「お気をつけ下さい!!」

 闇山津見が叫んだ。
 宇受売と神田比古が咄嗟に建速の前に神威を放ち、結界で盾を創り上げる。
 扉の内から飛び出してきた、闇ではなく、禍つ霊が、盾にぶつかり弾ける。
 衝撃で、火花が散った。

「どういうことだ」

 建速は未だ神威を使ってはいない。
 それなのに、檻は開いた。
 しかも、内側から。

 闇に揺らめく禍つ霊の神気が、神々の身を震わせる。
 怒りと憎しみに満ちた禍々しい神気であった。
 扉からゆらりと姿を現したのは――

「見つけたぞ、日嗣の御子。そなたのせいで、妹は死んだのだ……」

 禍つ霊の比売神、木之花知流比売《このはなちるひめ》であった。





















< 272 / 399 >

この作品をシェア

pagetop