高天原異聞 ~女神の言伝~
目覚ましの音がなる前に、目を覚ますのはもう習慣だった。
「――」
だが、一瞬、美咲は自分が今いるところがどこなのか混乱した。
自分を覗き込んでいる慎也の顔を見つけたからだ。
これは、夢の続きか。
「何、見てるの……」
「美咲さんの顔。可愛いから」
言われて、はっと寝返りをうって顔を隠す。
寝起きの顔など可愛いも何もあったものではない。
「何で隠すの? 今更」
今更だろうが何だろうが、それは女心というものだ。
そんな美咲の心中を余所に、慎也は美咲の肩を引き戻し、覆い被さるように抱き寄せる。
「慎也くん、もう、朝だから」
「朝だろうが、夜だろうが、美咲さんはいつでも可愛い」
慎也の手が脇腹を撫で上げると、ぎょっとして押し退け、ベッドの端によって身体を起こす。
「駄目、駄目駄目駄目!! 朝から、不健全すぎる!!」
あからさまに押し退けられて、慎也は不満そうだった。
「だって、部屋にいるなら、すること限られてるじゃん。それとも、美咲さん、俺と出かけてくれる? 美咲さんと手を繋いでデートしたい」
「却下」
「はやっ」
「誰に見られるかわからないのに、そんなことできないわよ。卒業するまで秘密にするっていったくせに」
「だって、もうバレバレだし――って、美咲さん」
慎也が身を乗り出す。
「な、何よ」
「要は、バレなきゃいいいんでしょ?」
「――そう、だけど」
「じゃ、バレないようにデートしようよ」
そう言うと、慎也はベッドから飛び降りて自分の携帯を掴み、電話をかける。
「ちょっと、こんな朝早くに誰にかけるの? 失礼じゃない?」
「建速《たけはや》だし、構わないでしょ」
「え? なんで――」
聞き終える前に、建速が電話に出たらしい。
「建速、頼みがあるんだけど、すぐ来れる?」
「珍しいな。何だ」
「!?」
すでに部屋の中に建速が立っている。
神威はこういう時に使わないで欲しい――美咲は内心で思う。
だが、次の慎也の言葉で、美咲は、切実に痛感することになる。
神威は、日常では決して私的な目的で使わないで欲しいと――