高天原異聞 ~女神の言伝~
戻ってきた慎也が美咲の分のトレイをテーブルに置く。
美咲にハンカチを差し出した国津神はすでに人混みに紛れていた。
「今の、誰?」
「わからないけど、きっと国津神ね」
慎也が隣に座りながら怪訝そうにする。
「ちょっと目を離すとすぐに寄ってくるなぁ。黙って見てるはずなのに」
「泣いてたから、心配して来てくれたのよ」
「泣いてたって、何で?」
心配そうに自分を見る慎也。
そんなところは国津神と一緒だと、慎也は気づいてもいない。
愛しさが溢れてくる。
だから、真っ直ぐに見据えて、美咲は言った。
「一緒にいられて、嬉しいから。こんなふうにデートできるなんて思ってなかったもの」
「美咲さん――」
驚いた顔で美咲を見つめる慎也――そんなくるくる変わる、美咲の前でだけは甘えたがりで表情豊かな慎也がすごく大切に思えた。
「憶えていてね。すごく、嬉しいってこと。私を見つけてくれてありがとう。大好きよ」
その言葉に、慎也が眉根を寄せる。
それから、大きく息をついてテーブルの下の美咲の手をとる。
「美咲さんこそ、何でそんな嬉しいことここで言うかな……今すぐ押し倒したいぐらい可愛すぎる」
「――それは駄目」
「だよね」
美咲の即答に、肩を竦めて笑う慎也が愛おしい。
いつでも、どこでも、光の雨が降る。
それは、自分の喜びでもあったのだ。