高天原異聞 ~女神の言伝~

5 まかるがえし



――全て終わったら、私を、妻にしていただけますか?

――そなたはまだ子供故、いずれな。

 子供をあやすようにかわされる。
 自分の言霊を、まるで信じていないようにはぐらかしてしまう。
 自分は真剣なのに。
 死んでしまった姉達に比べたら、幼いけれど、それでも、もう夫を迎えられる歳だ。
 絶望しかなかった自分に、希望を与えてくれた雄々しい方。
 父も母も、反対などすまい。
 それどころか喜び勇んで支度を進めてくれるだろう。
 もうすぐ全てが終わる。
 自分達を苛んでいた呪縛から、解き放たれる日か来る。

 貴方が私を死の定めから救ってくれる。
 そうしたら、貴方とともに、この豊葦原で生きて往こう。
 此処では駄目だというのなら、貴方の妻として、何処までもついて往こう。

 私の命は、私を救ってくれる貴方のものなのだから。




「国津神が、消える――?」

 荒ぶる神の言霊が、厳しさを増した。
 久方ぶりに八塚の本邸へ顕れた荒ぶる神に、当主である八塚宗孝は急ぎ報告した。

「どういうことだ」

「我々も気づくのが遅れました。丸一日姿を消して、戻ってきた時には何も覚えていなかったのです。他にもおられるのかと調べたところ、時間の差違はあれ、日が落ちてから記憶のない空白の時間がある神々がおりました」

「――」

「神々は消えたことも覚えておりません。弱き神々であることを考慮しても、母神から産まれた国津神です。一時捕らえて、何がしたかったのか――」

「戻ってきた国津神に何か変わったことは?」

「今のところはありません。葺根様に確認していただきましたが、呪の類を施された様子もございません」

 荒ぶる神の眼光が鋭くなる。

 美咲と慎也を狙うのではなく、国津神を攫っておいて何もせずに返すとは――

「何が狙いか確かめねばならん」

「御意。消えた国津神々は、最初に消えた神々以降、八塚の分家筋の憑坐がほとんどでした」

 荒ぶる神が八塚に視線を戻す。

「では、次に狙うなら、八塚の一族の中でも本家の血筋か」

 八塚が頷く。

「そして、神の憑坐となりし者――」

「ならば、葺根だな」






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