高天原異聞 ~女神の言伝~
第二章 集う神々

1 神気


 不意に、神々の存在――神気(しんき)が大気に満たされた。

――女神は記憶を取り戻せぬままだ。

 再び一つ。

――黄泉帰りしたから、記憶は失われたようだ。

 もう一つ。

――我々の神気に触れても、思い出さぬところを見ると、そのようだな。

 また一つ。

――案ずるな。男神と交合えば、いずれ記憶も戻るだろう。それとともに、我らの神威《かむい》も完全に甦る。

 さらに一つ。

――戻らなければ?

 重ねて一つ。

――それでも、我々の大事な命《みこと》であることは間違いない。

 あらゆる一つが呼応した。

――違いない。

 神々の神気が次々と増える。
 女神と男神の帰還により、様々な神々が目覚め始めた。
 神気が満ちる。

――豊葦原の中つ国に黄泉の気配がする。

――我々の領界に、黄泉神々が入り込んだ。

――高天原の気配もだ。

――天津神々の気配は未だわずかだ。神代の時代どおり、天津神々は最後だ。それよりも、黄泉神々に気をつけろ。奴らは再び女神を狙う。

――今度こそ、奪われてはならぬ。

――我らの命を、今度こそ護るのだ。

――女神の記憶と神威が戻るまで、決して黄泉神々を近づけてはならぬ。

 言霊が響く。
 不完全な神威が揺らめく。
 神気が再び大気に満ちて散った。
 後には密やかな沈黙のみ――




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