高天原異聞 ~女神の言伝~

9 はち


 朔が来た。
 死の力が満ちる。
 同時に死の神威が幽世《かくしよ》から現世《うつしよ》へと流れ込む。
 死神《ししん》が現世に還り越し、理が崩れる。
 現世が、闇の領界に侵食されつつある中、一際輝くのは、生の力に満ちた神器のみ。
 夜空の星のように、暗闇に輝く九つの煌めきは、神であれば誰でも感じ取れた。
 界を隔て、夜之食国《よるのおすくに》に在る闇の主にさえ、それは感じられた。

「死の神威が、生の神威を越える。現世が、幽世となる」

 それは、夢の終わりだった。
 待ち望んでいたはずなのに、心は今も夢に囚われていた。
 それでも、往かねばならぬ。
 伊邪那美を取り戻さねば。
 闇の主は、静かに、夜の領界から姿を消した。







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