高天原異聞 ~女神の言伝~
10 くさぐさのもの
自分のかけた呪詛が動いたのを感じて、月神は目を覚ます。
褥には、自分だけ。
九十九神《つくもがみ》に抱かれて、眠っていた。
「九十九神……?」
――御方様、良くお休みになったようでようございました
身を起こし、月神は辺りを見回す。
だが、静まりかえった館は変わりない。
「……そうか」
月神は悟った。
夢は終わったのだ。
その証に、苦しみも、つかえるような胸の痛みもない。
夢はもう見ない。
悪い夢も。
良い夢も。
静かに、月神は九十九神を見据えた。
「そなたの主に伝えるといい。呪詛が発動した。太古の女神は、神威を失い間もなく黄泉路を降ると」
九十九神の一部が、瞬く間に夜の領界から離れた。
月神の言霊を主に伝えるために。
――御方様は、これからどうされるのですか
「私は、眠る。夢も見ずに眠れば、もう何にも、誰にも、煩わされぬ――」
――ならば、お傍に。我ら九十九神の豊葦原での役目は終わりました
「許す。再び幽世に戻るまでは、傍におれ」
夢を拒み、月読は再び眠りに就いた。