高天原異聞 ~女神の言伝~
あいかわらず礼儀正しい紳士だ。
仕立てのよい着古した上着も、杖も、上品さを際立たせている。
この地域の利用者はみな人懐こいのか、気さくに美咲に話しかけてくる。
利用者も今年になってから急激に増えたようで、美咲としてもたくさん本を借りに来てくれるのは嬉しかった。
授業で利用されることもたまにあるが、この蔵書で、利用するのが学生だけでは惜しいと思っていただけに、毎日の一般の利用者と放課後の学生の学習室利用で、なかなかの盛況だ。
斉藤のような、品のよい利用者はマナーも弁えていて、この図書館の利用者として文句の付け所がない。
上機嫌で斉藤の後姿を見送る美咲に、
「美咲先生、ああいうおじいちゃんが趣味なんだ~」
些か品のない言葉が聞こえた。
声のほうに視線を向けると、この学校の女子生徒が二人、含みのある笑顔で美咲を見ていた。
いつも本を借りに来る常連なので、美咲はとっくに名前を覚えていた。。
ショートカットの背の高いほうが坂上美里、セミロングで美香よりも頭一つ分低いほうが吉原莉子だ。
美里が腕組みをしてニヤニヤしている。