高天原異聞 ~女神の言伝~

 服や髪に乱れがないか手で触れて確かめる。
 だが、それ以上動くことはできず、慎也を待つしかなかった。
 今まで感じたことのない不安に、戸惑っていた。
 まるで自分のものではないように、突如わきあがったあの感覚。
 自分だって付き合っている恋人同士がキスだけで満足するなんて思っているわけではない。
 慎也のことが好きだし、キス以上のこともしたいと思っている。
 さっきだって触れられて驚いたけれど、慎也の手はとても気持ちよかった。
 さすがに書庫で最後までというのはありえないが、初めての相手が慎也なら、きっと後悔はしない。
 だが、その後に感じた不可解な感覚は、そういった現実のこととはまるで違う感覚だった。
 不安――というより、深い嘆き、絶望、恐怖、そういったものが入り混じったようで、それまでの快感を全部かき消した。
 恋をすると、誰でもこんな風に感じるものなのだろうか。
 慎也と出逢ってから、確かに美咲の生活はがらりと変わってしまった。
 だが、それと同時に不可解なことも起こり始めた。
 自分のものではないような感情や感覚が、頻繁にわきあがり、不安定になる。
 夜は夜で、不思議な夢を見る。
 映画でも見ているかのような、不思議な夢で、目覚めた後でもその余韻に戸惑う。
 どうしてこんな風になったのだろう。
 いくら考えても、美咲にはわからなかった。

 
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