高天原異聞 ~女神の言伝~
「――先に戻ってるね。美咲さんはもう少ししたら出てきなよ。そんな顔で出て行ったら山中先生に疑われるよ」
その言葉はいつものように少し軽めに聞こえて、幾分美咲はほっとした。
一人書庫に取り残されて、考える。
卒業まで。
確かにそこまでは秘密にすると言ったが、自分だっておあずけなんてするつもりはない。
けれど、自分の中の不可思議な感覚を、慎也に説明するのは難しかった。
自分にだって説明がつかずに納得できていないものを、どうして慎也に説明できるだろう。
大きく息をつくと、とりあえず美咲はこのことを考えるのをやめた。
慎也に渡された資料を持って、出口へと向かう。
気持ちを切り替えて仕事に戻る時間だった。