高天原異聞 ~女神の言伝~
3 怪談の余波
闇の中、美しく光る目が、じっと空を見据えていた。
琥珀色のその瞳は、地上に思いを馳せる。
取り囲む暗闇は、命あるようにうごめき、主の声を待っていた。
「男神が女神と出逢った。密約は、今度こそ、果たされねばなるまい」
やがて響く低い声音に、うごめく闇が震えるように呼応した。
――果タサレネバ
――密約ハ、イマダ果タサレテオラヌ
――今度コソ果タサレネバ
長い指が伸ばされ、地上を指した。
「黄泉より出でし同胞よ。先触れはすでに中つ国の領界にたどり着いた。出迎えを。我が妻を、今度こそ私のもとへ連れてまいれ」
闇が大きく震え、主の声に従って、地上を目指した。
後には、主のみが残された。