高天原異聞 ~女神の言伝~
「全く、悪戯にもほどがある」
放課後の職員会議から戻った山中が渋い顔で図書準備室に入ってきた。
新刊のデータをチェックしていた美咲は、パソコンから顔を上げた。
「どうかしたんですか? 山中先生」
「いやね、放課後校内の見回りをすることになって。余計な仕事が増えて困るわよ、ほんと」
「見回りですか?」
「ほら、坂上と吉原が昨日言ってた校内のお化け話、あれのせいよ」
美咲は、美香と莉子の話していた幽霊話を思い出した。
「あの、朝来たら机と椅子が濡れているってやつですか?」
「そう! 警備員さんが見回ってるはずなのに、犯人を見つけられないのよ。一週間も前から生徒達を帰してから私達教諭も二人一組で校内巡回してるのに、それでもダメ。見回ってるときはなんともないからって、朝来て見ると濡れてるわけ。警備員さんが朝点検しに行くとやられてるの。何がどうなってるんだか。
私、明後日が当番に当たってるのよね。藤堂さん、悪いんだけど、明日と明後日、ここの戸締りよろしく。明後日はここから直接行くから、渡り廊下は私が鍵閉めるわね。生徒達に連絡はしてあるけど、明日からしばらく三時過ぎたら一般用の玄関を使わせて」
「わかりました。大変ですねえ」
「全く、もし見つけたらただじゃおかないわ。こんな手の込んだ悪戯して。こっちはまだまだ手のかかる中坊の子供と旦那の世話で手一杯だってのに」
憤慨する山中を見て、内心美咲はほっとしていた。
やはり学校の怪談などというものは誰かの悪戯なのだろう。
しかし、夜間の警備員を出し抜いて机と椅子に水をかけるなどと、山中の言うとおり手の込んだ悪戯をする意図は何なのか。
一晩に一クラス約四十人分の机と椅子を濡らすことで、何の得があるのだろう?
自分が高校生だったときを思い返してみても、そんな悪戯をする者はいなかった。
ここが私立高校だからなのか。
独特の校風やカリキュラムのため、自分が通っていた公立学校と全く違う生徒の様子にもようやく慣れてきたが、やはりまだまだ美咲には理解不能だった。