高天原異聞 ~女神の言伝~
耳元で、慎也は続ける。
「理由つけないと美咲さんといられないじゃん。俺だって声かけてほしいし、美咲さんに触りたい。図書館と帰り道だけじゃ、全然足りないよ。一日中一緒にいたいよ。正直言うと、今すぐ美咲さんと結婚したいくらいだ。そうすれば、毎日一緒にいられるから」
「結婚って――」
驚く美咲の耳元に、さらに顔を近づける。
「美咲さんと同い年で生まれてたらよかった。そしたら、躊躇ったりしないで俺と付き合ってくれたでしょ?」
「……そう、かも……」
正直に、美咲は答えた。
慎也のことはすごく好きだ。
きっと、慎也が思ってくれているのと同じくらい強い気持ちで。
だが、慎也より先に社会人になり、働いている自分と高校生の慎也との間に距離感があることも確かなのだ。
好きだけれど遠い。
四年の差は、学生と社会人ではあまりにも大きく感じる。
自分がせめてまだ大学生だったら、戸惑いながらももっと素直に慎也を受け入れられただろう。
同い年だったら――そう思ったのは美咲も同じだった。
「ずっと一緒にいられるまであと一年もないよ、すぐだ。だから、俺の気持ち疑わないで」
言葉をつくして美咲の不安をなくそうとしてくれる慎也の優しさが嬉しかった。
「――わかった」
小さな呟きでも、触れた身体越しに伝わった。
「よかった」
慎也はほっとして身体の緊張を解いたあと、美咲を向き直らせてもう一度優しく抱きしめた。
甘えるようなその仕草に、美咲の気持ちも温かくなる。