高天原異聞 ~女神の言伝~
「もう放して。図書館閉めて帰らないと」
ぽんぽんと背中をたたいて、美咲は慎也から離れようとするが、慎也は腕を緩めてはくれなかった。
「慎也くん?」
「放したくないな。もう少しこのまま」
「ちょっと、駄目よ。必要以上に明かりがついてたら疑われるじゃない」
「じゃあ、このまま大人しく放すから、美咲さんのアパートに入れて」
「ど、どうしてそうなるのよ!?」
「入れてくれるだけでいいよ。キスより先はしないから」
「キスより先、って――」
キスはするつもりなのかと突っ込みたくなったが、薮蛇になりそうだったので、美咲はそれ以上口にはしなかった。
「――わかったわよ、入れてあげるから離れて」
あっさりと承諾した美咲に、今度が慎也が問い返す。
「ホントに?」
「コーヒーぐらい入れてあげるわよ。その代わり、大人しく飲んだら帰ってよ」
「わかった、じゃあ、はやく帰ろう」
そう言って身体を離すと、慎也は上機嫌で美咲を見下ろして、
「ありがと、美咲さん」
今度は美咲の唇に素早くキスをした。
「こら!!」
笑って離れると、慎也は一般用玄関へ靴を取りに向かった。
そうして、十分後、二人はいつものように人目を気にしつつ、二人で帰る。
それを離れて窺う人影には、全く気づいていなかった。