高天原異聞 ~女神の言伝~
5 悲しい夢
暗闇に浮かび上がるように美しく舞い散る薄桃。
去っていく愛しい背の君。
こみあげる想い。
――往かないで。
戻ってきて。
走り去る貴方の背に、何度も呼びかける。
声も嗄れんばかりに。
それなのに、貴方は振り返ってはくれない。
闇の中に浮かび上がる薄桃色の花弁が、貴方の姿をかき消していく。
涙にけむる視界を、何度も何度も花びらが遮る。
貴方が遠ざかる。
あとには降り注ぐ花びらだけ――