高天原異聞 ~女神の言伝~
「カードを、作ってもらいたい」
開館時刻と同時に入ってきて美咲に話しかけてきたのは、とても背の高い男だった。
「は、はい。お作りしますね。このカードに記入をお願いします」
美咲が渡した登録カードに、男は少し屈んでペンを走らせた。
無造作に伸ばした髪を後ろで一つにまとめて、黒のレインコートがよく似合っていた。
昔はやったSF映画の主人公のようだった。
あまり本を好んで読みそうには見えないが、人は見かけによらないものだ。
書かれたカードを元に図書カードの手続きをする。
「こちらがカードになります。図書の貸し出しは五冊までで、貸し出し期間は二週間となっております。詳しい内容はこちらの案内をご覧く――」
図書カードを差し出した美咲の手を、男が掴んだ。
掴まれた手は、男と比べたらあまりにも小さく、華奢だった。
男は大きく、長い指で美咲の手をとらえたまま動かない。
温かな手だった。