高天原異聞 ~女神の言伝~
「いつも本を読んでたわ。そして、時折、不意に顔を上げるの、まるで誰かを探してるみたいに。遠くを見てた。とても遠くを。そんな彼を見て、いつも、彼が遠くを見てるたびに、早くその誰かに逢えるように願ってた。
だから、今年になって彼が図書館限定で歳相応の高校生みたいに楽しそうにしている姿を見て、本当に嬉しいの。逢いたい人に、やっと逢えたんだって、すぐにわかった」
山中が、美咲を見つめて人差し指を口元に当てた。
「でも、これは内緒なの。彼が卒業するまで、ずっと内緒。知らないふりをし続けてあげる」
「――」
「さ、おしゃべりはおしまい。本探すの手伝ってあげて。ここは私がするから。ゆっくりどうぞ」
「は、はい」
書庫の扉を後ろ手に閉めると、美咲は大きく息をついた。
確信した。
山中にはばれている、自分と慎也のことは。
以前の慎也を知らないから、美咲は自分に見せる態度が普段の彼となんら変わらないと思い込んでいた。
今年の慎也の様子が特別なのなら、山中ならすぐ気づく。
「――」
それでも、内緒にしてくれると言った。
反対するどころか応援してくれるらしい。
素直に喜べばいいのだろうか。
釈然としない気持ちのまま、美咲は奥へと進んだ。