高天原異聞 ~女神の言伝~
先に書庫に入った慎也は奥の階段に座っていた。
美咲が近づくと立ち上がり、嬉しそうに笑って美咲を抱きしめる。
「すごく美咲さんに会いたかった。放課後まで待ちきれなくて来ちゃった」
「――」
美咲は腕を上げて慎也を抱きしめ返す。
先ほど山中が言っていた、去年までの慎也と今の慎也がどうしても結びつかない。
こんなにも素直に愛情を示してくれる慎也を、愛しく思う反面、戸惑っている自分もいる。
なぜ、慎也なのだろう。
なぜ、自分なのだろう。
素直に喜べないのはなぜなのだろう。
不安ばかりが押し寄せる。
いっそう強くしがみついたとき、慎也が耳元でささやいた。
「明日、美咲さんのとこに泊まってもいい?」
美咲は驚いて顔を上げた。
いくら鈍くても、慎也の意図はわかる。
「――」
だが、朝の夢のせいなのか、美咲は素直に頷くことはできなかった。
その戸惑いを、慎也は見逃してはくれなかった。
「まだダメ? 俺だって男だから、大好きな恋人と一緒にいたら、キス以上したいよ」
その顔は傷ついたような表情にも見えた。