高天原異聞 ~女神の言伝~
「美咲さん?」
「――」
涙が零れて、美咲は我に返った。
まただ。
あれは夢のはず。
誰かに裏切られたことなど、無いのに。
それなのに、まるで自分の以前の記憶のように鮮明で。
訳のわからない感情に翻弄される。
自分のものではない感情にとらわれて、涙が止まらない。
慎也が美咲を引き寄せて抱きしめる。
美咲は慎也にすがりついた。
「ごめんね、美咲さん。でも、すごく好きなんだ。ずっと一緒にいたい。すごく好きすぎて、自分でもどうしようもないんだ」
「……」
往かないで。
大声で叫びだしたかった。
それでも、何も言えずに、美咲はただ、慎也の背中に回した腕に力をこめた。
どんなに強く抱きしめてくれても、どんなに強くしがみついても、安心することができなかった。