高天原異聞 ~女神の言伝~
「ごめんなさい、大丈夫?」
本を重ねながら、問う。
「ああ。そっちこそ」
一番上に重ねた本がわずかにずれ、咄嗟に、手を伸ばす。
だが、もう一方の、自分より大きな手のほうが、早かった。
伸ばした手が重なり、けれど美咲はすぐに動けなかった。
触れた手の温かさに、動けなくなった。
なぜか相手の手も、動かなかった。
それが、美咲と時枝慎也との出逢いだった。
瞳と瞳が出合ったとき、なぜか、泣きたくなった。
あまりにも長い間、出会わなかった懐かしい人に出会えたように。
ずっと待っていた人に、出会えたように。
心が、震えた。
――柱を回って、互いが出会う場所で、寿ぎし、褥をともにする。
不意に、そんな言葉を思い出した。
日本の神話。
国産みの神話だ。
先に声をかけたのは、確か女神の方だったと、美咲はぼんやりと思った。
――本来、男神が先に寿ぎの言葉を述べるところを、女神がしてしまったので、二神の間に産まれた子どもは、手も足もなく、器すら持たぬ蛭子であったという――