高天原異聞 ~女神の言伝~

 恐怖に、美咲は震えた。
 脳裏に、美里と莉子の話していた怪談話が閃いた。
 誰かを探すように机と椅子を濡らしていく、奇妙な現象。
 山中が言っていた、見回っても犯人を見つけられないと。
 瞬時に悟った。
 犯人などいない。
 これだ。
 この水だ。
 闇のように黒い水が、廊下を這うように近づいてきた。
 見つけたと言った。
 自分を追ってきたのだ。

 暗闇には近づくな。捕まったら戻れなくなる。

 男の言葉を思い出した。
 逃げなくては。
 美咲は急いで図書館への渡り廊下の扉を目指した。
 だが、角を曲がって扉を視界に捕らえたとき、はたと気づいた。
 駄目だ。
 図書館には逃げ込めない。
 あそこにはたくさんの本がある。
 水に濡れたら、それこそ取り返しがつかない。
 美咲は渡り廊下の扉を通り過ぎ、普通棟へと向かって走った。



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