高天原異聞 ~女神の言伝~

 やがて、慎也がようやく美咲から顔を離した。
 乱れた吐息で、美咲はようやく言葉を搾り出す。

「もう駄目……仕事しなくちゃ……」

 素直に慎也が頷く。

「うん。ごめんね。手伝うから、一緒にしよ?」

 慎也が美咲の手をとって、指を絡める。
 そうして、床においてあった台帳を空いている左手で取った。
 だが、慎也は繋いだ手をいつまでも離そうとしない。

「これじゃ、仕事できないわ」

「大丈夫、美咲さんは右手、俺は左手使えば一人分だよ」

 あからさまな愛情に、美咲は何だか切ない気持ちになった。
 それ以上、言い募ることもできず、二人で手を繋いだまま仕事をした。
 繋いだ手は、温かく、愛しく、書庫を出るまで放れることはなかった。







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