嵐の日から(短編)
海上には巨大な竜巻が発生していました。
今まで彼女が知っていたものとは全く違うものです。
しかし怖くはありません。
むしろ、竜巻の美しさに感じ入る気持ちが強いのです。
本当に…それは明るく光る白い雲の柱となって凄まじい勢いで海水を吸い上げています。
唸り声も轟音もなく、静かに、しかし恐ろしい速さで高台へと近づいてきました。
「まぁ…なんて美しい世界の終わりでしょう…!」
感嘆にも似た声で彼女は呟きました。
竜巻は高台に辿り着くと、ベラトリスの家ごと持ち上げてしまいます。
彼女の大切だった……ありとあらゆるものが 天上へと舞い上がり天国へ消えていったのです。
……1つ残らず。
ベラトリスは目を輝かせながら眺めていました。
不思議と心は軽く、ずっと隅で燻っていた思いも消えさっているのです。
竜巻は高台をすぎると徐々に細くなり、やがて姿を消していきました。
空にはすっかり朝日がのぼり、彼女の顔を明るく照らしています。