嵐の日から(短編)


「溶けるほど暑い夏なんてあるのね…」





ベラトリスには信じられないものでした。
彼女にはこの家と小さな街が世界の全てだからです。










手紙を引き出しに片付けると窓を開けました。


すぐ側の浜辺からはかすかな夏の風が悪戯に彼女の髪を撫でていきます。




何をするにも気持ちの良い穏やかな夏の日でした。








それでもベラトリスは実に深刻な表情で海を見つめています。





「嘘だわ。何もかも全て…。

大きな災いが来るときは何時だって世界は穏やかですもの」












窓を閉めて鏡の前に立つと、明るい茶色のボブヘアに小さな花の髪飾りを付け、青いビロードのワンピースを来た少女がいます。








髪飾りに触れながらベラトリスは考えていました。









新しい髪飾りが欲しいわ。



薄い紫がかったピンクの方が私には似合うでしょうね…。



でもヴァーニャがくれたこれ以外似合う気がしないのも確かなの…。



それにこんなにも災いが近くまで来ているときに新しい髪飾りなんて必要かしら?



どうせ死んでしまうなら何をしても同じよね。











鏡の前の自分とにらめっこをすると、鉛のように沈む気持ちを引きずって居間へ行きました。




午後4時には友人のアーリャが訪ねてくる約束だからです。




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