TAKE MEDICINE この世界で誰が正常でいられると？

「本当かどうか知らないけど、自殺しようとしたことあるんだって、桧野。理由は知らないけど、飛び降り自殺で、落ちた場所が運よく木の上で、一命を取り留めたらしいの」

どうでもよさそうな瞳で、舞香は重大なことを話す。
なんかそのギャップがおかしくて、不謹慎にも笑えてしまう。

「一命を取り留めたのはいいものの、フラッシュバックとかで色々大変だったみたい。なんか落ちるときの恐怖とか、体に染み付いちゃっているらしくて。それで死とか自殺とかそういう系の話すると、ああやって敏感に反応しちゃうらしいの」

死ぬということを身をもって知ったということか。
わたしが体験したとしたら、絶対に立ち直れていないだろう。

「強いよね、桧野」

気をつけて聞かなければ聞き流してしまうほどの音量だった。
ぼそりと呟いた舞香に、疑問詞だけで返事をしてやると、舞香が照れたように早口で捲くし立てた。

「いや、だって、ほら、一時期はものすごく塞ぎこんでいたらしいけど、今はあんなに元気で、明るくて……すごいなって」

喋ると同時に可愛らしいツインテールがゆらゆらと揺れた。
わたしはそのツインテール越しに桧野を見つめていた。

本当に、どうやって立ち直ったんだろう。
やり方があるのなら、教えてほしいくらいだ。