TAKE MEDICINE この世界で誰が正常でいられると?
「……だけど、残念だなぁ」

さっきと同じ冷静な顔で静かな口調。
だけど何かが変わった。その何かが何なのか分からないけれど。
その何かを桧野も感じ取ったらしく、眉をしかめていた。

「読みかけの漫画読みたかったし、新しいパソコンをみんなに自慢したかった。ステーキだって二年ぶりだし、ケーキバイキングも行きたかった。だけど全部できないなんて、残念」

その口調は、まるでもうここから出られない、それかもう死んでしまうことが明らかのようだった。

舞香はもう諦めている。
ここから出て、あの日常を取り戻すことを諦めている。

わたしは驚いて、舞香に問いただした。

「何言ってるのよ、舞香! 生きて戻れば、漫画だって読めるしパソコン自慢できるしステーキも食べれるし、バイキングだってもちろん行けるよ!」

だけど舞香は悲しそうに首を振るばかりだった。
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