TAKE MEDICINE この世界で誰が正常でいられると?
きっと今回もそう。
わたしは無力だからと情けない言い訳をして、舞香を見殺す。

スーツの男の人に手を取られ、舞香は今にも泣きそうに潤んだ瞳でこちらを見つめている。
だけど確かに笑っていた。少し引きつっていたけれど、ぎこちないけれど、頑張って笑っていた。
まるでわたしを安心付けるような、穏やかな笑みだった。

その瞬間、わたしの中の何かが弾けた。

「……やめて。盗らないで。連れて行かないで」

伝わる温もりと震え。
気付けばわたしは舞香の腕をしっかりと掴んでいた。
いつのまに立ったのだろうと思うほど、それは無意識の行動だった。

抵抗したら何されるか分かっているんだろうなという、桧野の声が脳内で響く。
わたしはそんな言葉を振り払うかのように小さく頭を振ると、しっかりと杉村を見据え、言った。

「舞香はわたしの、わたしの……友達なのよ」

怖くて足がガタガタと震えているのが分かった。
情けないけれど、指を咥えて見ているよりはマシだろう。
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