TAKE MEDICINE この世界で誰が正常でいられると?
だけど誰も動かなかった。
ただ安藤が引き摺られていくところを呆然と見ているだけだった。

先生のときと同じ。
きっとわたしのときも同じ。
誰も助けてくれない。ただ目を逸らすだけ。

安藤の必死の叫び声はずっと続いた。
バラックの中に入っても、音量は変わらなかった。
たまにかすれたり、かんだり、嗚咽が混じったり。

その悲鳴を聞くたびにわたしは悲しくなって、目が熱くなってきた。 

泣くな、わたし。
零れたら殺すからね、涙。
こんな声をあと何回聞かなきゃいけないか、わたしは身をもって知っているはず。

まだまだ序の口なんだから。
もっと強くならなきゃいけないんだから。
もっと悲しみは強くなるんだから。

そうやって自分に言い聞かせる。
安藤の悲痛な叫びを聞きながら、感情を抑える。
先生のときは不覚にも抑えられなかった涙、今回は我慢しなくちゃ。
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