LAST EDEN‐楽園のこども‐
「あたしの手、小さいだろ」


「はい」


佐伯は素直に頷く。


「だからさ」


そして涼は口を閉じた。


それで理解できると思ったのか、それとも単に説明するのが面倒だったのか。


涼の真意はわからないが、佐伯は涼がそれ以上のことを言わないつもりであることを察して、食い下がる。


「ですから、それはどういう」


「頭良さそうなのに、案外鈍いんだな」


「にぶ……」


佐伯は言葉を失う。


言っては何だが、生まれてこの方、彼は他人から否定的な言葉を投げつけられたことはない。


常にテストやテニスの成績において優秀な成果を残してきた彼に、鈍いなどと言う人間は一人もいなかった。


しかし目の前の少女は、自分に対して怯みもしなければ、その態度は明らかに友好的でもない。


見知らぬ人間に突然声をかけられたのだから、それも当然かもしれないと思ったが、それにしては、彼女の言い草はあまりにも正直すぎやしないだろうか。


戸惑いの表情を浮かべる佐伯の前で、涼は自身の手を引いてその掌を静かに見つめた。


「ガキの手は小さいよな。大人になれば、この手も体も少しはでかくなって、重い荷物を抱えても平気かもしれない。もっと頭も柔らかくなって、色んなことを考えられるようになるかもしれない。だけど、今のあたしの小さな手で大きな荷物を抱えても、落として壊れるだけって話さ。それに」



こんなちっぽけな手で掴める未来なんて、たかが知れてる―――――。



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