LAST EDEN‐楽園のこども‐
血が滲んだ唇から発せられた言葉は、耳にしたすべての者の心に、悲哀の感情を否応なく呼び起こした。


けれど、彼らが何かを言うことはない。


死への恐怖を超え、生への執着を捨ててその決断を選んだ者に対して、幼い彼らが口にできる言葉はあまりにも少なすぎたのである。


「あのさ」


絶対の無言がその場を包んだ、瞬間の刹那。


何を言おうとしたのか、真斗が唇を開く。


しかし、その場の空気を変えたのは、彼の声ではなかった。


「あなたが死んだところで、世界は変わりませんよ」


「佐伯!」


三神が嗜めるように佐伯を睨む。


だが佐伯はその視線を無視すると、ぼろぼろになったミウの制服をチラッと一瞥して、小さく吐息する。


「その格好を見れば、大体の見当はつきます」


「―――っ」


ミウは、目を見開いた。


そして、シューズの跡のついた制服の自分を両腕でギュッと抱きしめると、唇を噛み締める。


いじめられていることを他人に知られてしまった恥ずかしさからか。


それとも、死ねば救われると思っていた甘さを、遠回しに指摘された口惜しさからなのか。


さらに苦しげな表情を浮かべると、ミウは体を抱きしめたまま、小さな肩を震わせ始める。
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